EU AI法とは?2026年の適用スケジュール、AIコンテンツ表示と禁止事項を解説
2026/09/24

- EU AI法は2026年に何が変わるのか
- ProviderとDeployerではEU AI法上の義務が異なる
- Article 50は一定のAIシステムに透明性義務を定めている
- AI生成コンテンツのすべてに同じ表示義務があるわけではない
- Article 5は特定のAI慣行を禁止している
- EU AI Actの下で、AIによる文章・画像・動画の生成や顔交換を利用する際の注意点は?
- 高リスクAIと生成AIは同じ分類ではない
- GPAIモデルのProviderと一般利用者は区別される
- AI literacyはProviderとDeployerが確認すべき別の義務である
- EU AI法への対応では機能名ではなく実際の利用状況を確認する
EU AI法(EU AI Act)は、AIをリスクや利用方法に応じて規律するEUの包括的なAI規制です。本記事では、EU AI法の現行ルールと2026年の改正をもとに、2026年以降の適用スケジュール、ProviderとDeployerの違い、AIコンテンツのマーキング・開示、禁止されるAI慣行を整理します。AIチャット、文章・画像・動画生成などを利用する場合も、「AI生成=表示が必要」「生成AI=高リスクAI」と一律に判断せず、法的役割、利用方法、コンテンツ、適用条件を確認することが重要です。
EU AI法は2026年に何が変わるのか
EU AI法の基本法はRegulation (EU) 2024/1689です。「EU AI Act 2026」という別の法律が2026年に新しく制定されたわけではありません。
一方、2026年にはArticle 50の透明性義務が適用され始め、さらにRegulation (EU) 2026/1744による改正も行われました。そのため、2026年は生成AIを利用する企業にとって重要な年ですが、「EU AI法全体が2026年8月2日に一斉に適用された」と理解するのも正確ではありません。条文によって適用時期や経過措置が異なります。
European Commissionの最終ガイドラインも、Article 50の透明性義務が2026年8月2日から適用されることを明示しています。
EU AI法では発効・適用開始・経過措置を区別する
EU AI法を確認するときは、法律が発効した日と、個別規定が実際に適用される日、経過措置の期限を分けて考える必要があります。
| 日付 | 主な法的変化 | 実務上のポイント |
| 2025年2月2日 | Chapters I・IIの主要部分が適用 | Article 4などを確認 |
| 2026年8月2日 | Article 50の透明性義務が適用 | AIとの直接的な対話、機械可読形式のマーキング、一定の開示義務などを確認 |
| 2026年12月2日 | 2026年改正で追加されたArticle 5の新規定が適用 | 新たな禁止慣行の要件・例外を確認 |
| 2026年12月2日 | 2026年8月2日より前に市場投入された一定の生成系AIシステムについてArticle 50(2)の経過期限 | 対象Providerは必要な対応を確認 |
| 2027年12月2日 | Article 6(2)・Annex IIIに基づく高リスクAI関連規定の適用時期 | Annex IIIの対象分野を確認 |
| 2028年8月2日 | Article 6(1)・Annex Iに基づく高リスクAI関連規定の適用時期 | 製品安全法制と関連するAIを確認 |
Article 50については、2026年8月2日より前に市場投入された一定のAIシステムに対する限定的な猶予期間がArticle 50(2)のマーキング・検出義務について設けられ、対象Providerは2026年12月2日までに必要な措置を講じる必要があります。
2026年の改正内容については、Regulation (EU) 2026/1744の公式テキストで確認できます。
ProviderとDeployerではEU AI法上の義務が異なる
EU AI法を生成AIの利用場面に当てはめる際、最初に整理したいのが**Provider(プロバイダー)とDeployer(デプロイヤー)**です。
Providerは、AIシステムを開発する、または開発させ、自らの名称・商標でEU市場に投入したりサービス提供を開始したりする自然人・法人などを指します。一方、Deployerは、原則として自らの権限の下でAIシステムを使用する自然人・法人などを指します。
一般的なAI利用者が自動的にDeployerになるわけではない
「AIを使っている人=Deployer」と機械的に置き換えることはできません。個人的・非職業的な活動には定義上の区別があります。また、法人がDeployerで、その指示・管理下で従業員がAIシステムを操作する場合、その従業員を別個のDeployerとして扱うべきではありません。
したがって、GenApeなどの生成AIサービスを利用するときも、「ユーザー」というサービス上の呼称だけでEU AI法上の役割を決めるのではなく、誰がどの権限でAIシステムを提供・利用しているのかを確認する必要があります。
Article 50は一定のAIシステムに透明性義務を定めている
Article 50は、一定のAIシステムのProviderとDeployerに関する透明性義務を規定しています。European Commissionが2026年7月に公表したArticle 50最終ガイドラインも、その透明性義務の範囲を整理しています。
重要なのは、Article 50を単純な「AIコンテンツにはウォーターマークを付ける法律」と理解しないことです。

AIとの直接的な対話には一定の透明性義務がある
Article 50(1)では、人と直接やり取りすることを意図した一定のAIシステムについて、Provider側に透明性に関する義務が設けられています。
ただし、利用状況や文脈を考慮して、合理的な情報を有し、注意深く慎重な自然人にとってAIシステムと対話していることが明らかな場合には通知を要しないという限定があります。
そのため、AI ChatやAI Agentという機能名だけから、一律に同じ表示方法が必要だと結論付けることはできません。
機械可読形式のマーキングは可視ウォーターマークと同じではない
Article 50(2)は、合成された音声・画像・動画・テキストコンテンツを生成するAIシステム(GPAIシステムを含む)のProviderについて、その出力を機械可読形式でマーキングし、人工的に生成または操作されたものとして検出可能にする義務を定めています。
ここでいう機械可読形式のマーキングは、画像や動画の表面に「AI」と表示するような人間の目で見えるAIウォーターマークと同義ではありません。
またArticle 50(2)では、マーキングの技術的な実装について、技術的実現可能性、コンテンツの特性、実装コスト、技術水準などを考慮する必要があります。
一方、AIシステムが標準的な編集を補助する機能を果たす場合や、Deployerから提供された入力データまたはその意味を実質的に変更しない場合などには、同項のマーキング義務が適用されない場合があります。
したがって、「AIで生成した」という一点だけから、あらゆるAIコンテンツに同じ技術的マーキングが無条件で必要だと判断することは適切ではありません。
Deployerによる開示とProviderによるマーキングは別の義務である
Article 50では、Provider側の機械可読マーキングとは別に、Deployerに関係する透明性義務もあります。
代表的なのが、一定の**deepfake(ディープフェイク)**や、公共の利益に関する事項について公衆に情報を提供する目的で公開される一定のAI生成・操作テキストです。ただし、それぞれについて条文上の条件や例外を確認する必要があります。
特にdeepfakeについてDeployerが行う開示は、ProviderがArticle 50(2)に基づいて埋め込んだmachine-readable markingと同一のものではありません。
つまり、Providerによるmachine-readable marking、Deployerによるdisclosure、人間の目で見えるAIウォーターマークは、それぞれ同じ概念ではありません。
AI生成コンテンツのすべてに同じ表示義務があるわけではない
Article 50には複数の透明性義務があり、対象となる主体、AIシステム、コンテンツ、公開方法、例外が異なります。
AI生成動画が自動的にdeepfakeになるわけではない
AIで動画を生成したという事実だけで、その動画がEU AI法上のdeepfakeに該当するわけではありません。
deepfakeは、既存の人物、物体、場所、その他の実体・出来事に類似し、人に真正または真実であると誤認させ得るAI生成・操作画像、音声、動画などについて定義されています。実際の判断では、類似性、コンテンツの実質的メッセージ、利用文脈、対象となる視聴者なども重要になります。
さらに、deepfakeに該当する可能性があることと、その利用がArticle 5の禁止慣行に該当することも別問題です。透明性義務への対応と、コンテンツ自体の適法性の判断も同じではありません。
Article 5は特定のAI慣行を禁止している
Article 5は、AI技術や機能名を一律に禁止する「禁止AIツール一覧」ではありません。各禁止慣行には、それぞれ対象となる行為、目的、効果、条件、例外があります。

Article 5の主要な禁止慣行は個別要件で判断する
| 禁止慣行 | 概要 | 判断時のポイント |
| 操作・欺瞞または一定の脆弱性の悪用 | 一定の操作的・欺瞞的手法や脆弱性の悪用 | 手法、対象者、行動への影響、損害など |
| 一定のソーシャルスコアリング | 人の評価・分類に基づく一定の不利益取扱い | 評価方法、利用文脈、不利益との関係 |
| 一定の個人犯罪リスク評価 | 個人が犯罪を行うリスクに関する一定の予測・評価 | profiling等への依存や客観的事実との関係 |
| 顔画像の無差別収集 | InternetやCCTV映像から顔画像を無差別に取得 | 顔認識データベースの作成・拡張目的 |
| 職場・教育での一定の感情推定 | 職場や教育機関での感情推定 | 医療・安全目的等の例外を含め確認 |
| 一定のセンシティブな生体分類 | 生体データから一定のセンシティブな特徴を推論 | 推論対象と法定除外を確認 |
| 一定のリアルタイム遠隔生体識別 | 公衆がアクセス可能な場所での法執行目的の利用 | 厳格な条件・例外を確認 |
この表は概要であり、表にある技術を利用しただけで直ちにArticle 5違反になるという意味ではありません。
2026年改正では新しい禁止慣行が追加された
Regulation (EU) 2026/1744はArticle 5に新たな(ba)と(bb)を追加し、これらは2026年12月2日から適用されます。
一つは、識別可能な自然人の親密な身体部分や性的に明示的な活動を現実的に表現する一定のAI生成・操作コンテンツについて、法定の同意要件などを満たさない場合に関するものです。
もう一つは、Directive 2011/93/EU Article 2(c)・(e)が定義する一定のmaterialまたはperformanceに関連するAI生成・操作についての規定であり、適用条件や例外も確認する必要があります。
したがって、「同意のないdeepfakeはすべて禁止」「AIによる成人向けコンテンツはすべて禁止」といった一般化は避ける必要があります。AIシステムにそのようなコンテンツを生成できる技術的能力があるというだけでも、直ちにArticle 5の禁止に該当するわけではありません。
EU AI Actの下で、AIによる文章・画像・動画の生成や顔交換を利用する際の注意点は?
GenApe日本語版では、AIチャット、文章作成、画像・動画生成など複数のAI機能を利用できます。ただし、EU AI法上の判断は「どの機能を選んだか」だけで自動的に決まるものではありません。
AI機能ごとに役割・用途・コンテンツ・条件を確認する
| 利用例 | 最初に確認する事項 | 関連する可能性がある規定 | 実務上の注意 |
| AI Chat / Agent | 人との直接的なAI対話があるか | Article 50(1)など | AIとの対話が明らかな場合を含め適用条件を確認 |
| AI文章作成 | 誰が公開し、何を目的とする文章か | Article 50(2)、(4)など | public-interest text等の条件を確認 |
| AI画像生成 | 生成方法、対象人物、利用・公開方法 | Article 50、場合によりArticle 5 | machine-readable markingと公開時の開示を混同しない |
| AI動画生成 | 実在人物等との類似性、公開方法 | deepfake関連のArticle 50等 | AI動画=deepfakeと自動判断しない |
| 顔交換・写真を話させる利用 | 人物、内容、同意、目的、公開方法 | Article 50、場合によりArticle 5 | 機能名だけで禁止・適法を判断しない |
たとえばAI画像生成機能を使ったからといって、その利用者が自動的にProviderになったり、生成画像が自動的にdeepfakeになったりするわけではありません。実際の法的役割と利用状況を切り分けることが重要です。

高リスクAIと生成AIは同じ分類ではない
EU AI法には高リスクAIシステムに関する詳細な規制がありますが、一般的な生成AIを利用しているというだけで高リスクAIに分類されるわけではありません。
高リスクAIはArticle 6とAnnexの要件から判断する
高リスクAIの判断では、Article 6、Annex I、Annex IIIなどの要件を確認します。
2026年改正後、Article 6(2)・Annex IIIに関連するChapter III Sections 1–3は原則として2027年12月2日、Article 6(1)・Annex Iに関連する部分は2028年8月2日から適用される構造となっています。
また、EU AI法上のhigh-risk AI systemと、日本国内のAI政策・ガイドラインなどで使用される役割やリスク概念を、名称の類似だけで同一視しないことも重要です。
GPAIモデルのProviderと一般利用者は区別される
Chat、文章、画像、動画などの生成AIサービスでは、General-Purpose AI(GPAI)に関する規定も目にすることがあります。
GPAIサービスを使うだけでGPAIモデルProviderになるわけではない
GPAIモデルに関する義務は、そのモデルのProviderなど一定の主体に課されます。第三者が提供する生成AIサービスを通常の方法で利用するだけで、その利用者が当然にGPAIモデルのProviderになるわけではありません。
そのため、自社がモデルを開発・提供しているのか、既存サービスを利用しているのか、AIシステムとして別の形で市場提供しているのかを分けて確認する必要があります。
AI literacyはProviderとDeployerが確認すべき別の義務である
EU AI法Article 4のAI literacyも、業務でAIを提供・利用するProviderとDeployerが確認すべき義務です。
Article 4は特定の資格取得を一律に要求する規定ではない
現行Article 4では、ProviderとDeployerに対し、スタッフや自らに代わってAIシステムの運用・利用を担当する者のAI literacyの発展を支援するための措置を講じることが求められています。
その際には、技術的知識、経験、教育・訓練、AIシステムが利用される文脈などを考慮します。European Commissionも、2026年の改正後はAI literacyが引き続きProviderとDeployerの義務である一方、特定の、または「十分な」水準を達成することまでは要求されないと説明しています。
したがって、Article 4を「すべての従業員が同じAI資格を取得しなければならない」「すべての企業がAI Officerを設置しなければならない」という一律のルールとして理解すべきではありません。また、ProviderやDeployerが特定の個人について一定のAI literacyレベルへの到達を保証する義務でもありません。
EU AI法への対応では機能名ではなく実際の利用状況を確認する
EU AI法を生成AIの利用場面で確認するときは、まず自社・利用者の法的役割、AIシステムの実際の用途、生成・操作するコンテンツ、公開方法、各規定の適用条件と例外を整理することが重要です。
AI生成コンテンツだから一律に可視ウォーターマークが必要になるわけではなく、AI動画だから自動的にdeepfakeになるわけでもありません。また、deepfakeに関する透明性義務とArticle 5の禁止慣行も区別する必要があります。
AIチャット、文章、画像、動画などを一つの環境で制作したい場合は、GenApe日本語版で利用できるAI機能を確認できます。実際の利用に際しては、サービスの機能だけからEU AI法上の結論を出すのではなく、Provider/Deployerとしての役割、用途、コンテンツ、公開方法と適用条件を個別に確認してください。
- 1.EU AI法は2026年に何が変わるのか
- 2.ProviderとDeployerではEU AI法上の義務が異なる
- 3.Article 50は一定のAIシステムに透明性義務を定めている
- 4.AI生成コンテンツのすべてに同じ表示義務があるわけではない
- 5.Article 5は特定のAI慣行を禁止している
- 6.EU AI Actの下で、AIによる文章・画像・動画の生成や顔交換を利用する際の注意点は?
- 7.高リスクAIと生成AIは同じ分類ではない
- 8.GPAIモデルのProviderと一般利用者は区別される
- 9.AI literacyはProviderとDeployerが確認すべき別の義務である
- 10.EU AI法への対応では機能名ではなく実際の利用状況を確認する
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